鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

読書録「なぜハーバード・ビジネス・スクールでは営業を教えないのか?」

・なぜハーバード・ビジネス・スクールでは営業を教えないのか?
著者:フィリップ・デルヴス・ブロートン 訳:関美和
出版:プレジデント社(Kindle版)



「営業」について論じる作品として、これは中々面白いし、教えられるところの少なくない一冊だった。
「営業」に関する本ってのは山ほど出てるけど、大体は自分の成功体験に基づく教訓めいた話か、営業スキルの紹介が多い。
それはそれで役に立つことも少なくないし、「心構え」や「姿勢」という点では重要だったりもするんだけど、一方で底の浅さを感じさせられもするんだよね。
少なくとも真面目に「研究」されてるような印象はないし、そのことが「営業」の地位をビジネスにおいて微妙にしている(「評価」はされないながらも「不可欠」という意味で「必要悪」的な扱いをされる・・・とか)っていうのはあるんじゃないか、と。



本書はそういう「営業スキル本」「経験披露本」とは一線を画し、「研究」の対象として「営業」を取り上げている。
最近読んだ本だと、ダニエル・ピンクの「人を動かす、新たな3原則」に近いかな。
ただあの本は「法則を導き出す」ことに論点が置かれた作品だったけど、本書の方は(欧米のこの手の作品に多いんだけど)具体的事例の紹介を豊富に行うことで、大きな「流れ」を示唆するという内容になっている。
ダニエル・ピンクは「利他のセールス」という法則を導き出してたけど(そう定義したのは訳者の神田昌典氏だけど)、本書の結論も近いものがある。
ただ「全てがそうだ」という法則的な主張じゃなく、「色々な例があり、ケースバイケースではあるんだけど、こういう流れが強まっていると思えわれるし、そのことは人間社会にとってもいいことなんじゃないかと重う」っていうのが本書のスタンス。
この(悪く言えば)「曖昧さ」が、逆に本書の「誠実さ」なんじゃないかなぁ。
僕にとっては考えさせられる一冊だったし、参考にもなった作品だったよ。
(相手のニーズを理解し、相手の立場に立った上で、双方にとって「利益」のある関係を成立させる・・・って感じかなぁ。
一過性の「セールス」じゃなくて、より広い視野に立った関係性の中でビジネスを成立させるというか・・・。
もちろんそういうケースに該当しないビジネスもあるんだけど、少なくとも自分的には腑に落ちたな)



本書の中には日本の生命保険の営業職員の例が紹介されているし、解説はライフネットの岩瀬社長が書いている。
岩瀬氏の発言は一種の「敗北宣言」的な色合いもあって、これはこれで考えさせられる。
ま、「次の展開」を考えているからこその発言でもあるだろうけどねw。