鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

地味。だけど退屈しない。:映画評「リンカーン」

本作でのリンカーンは、とにかく疲れています(笑)。
猫背でゆっくりと歩き、ボソボソと話をする。
何だか、パッとしないなぁ・・・という印象。
話自体、リンカーンの生涯ならもっとも盛り上がるはずの「奴隷解放宣言」のところじゃなくて、修正13条を巡る議会工作がメインという、地味っぷり。
でもこのテーマこそが「現代的」なんですよね。




「リンカーン」



共和党のティーパーティの躍進で、現在のアメリカの政治状況は「決められない」混沌とした状況にあります。
今もそうですよね。
そうした中で何を目指して進んでいくべきなのか?
「交渉」とはどういうものなのか?
本作が描くのはそこです。



何よりも「和平」が優先されるべきだ。
本作の描かれた時点での「世論」は多分これでしょう。
そのため、
「憲法修正をあきらめ、和平をまず実現しよう。奴隷制度の廃止はそれから」
という層がいます。
あるいは
「修正案を通すためには和平工作が進んでいることがバレたらまずい。和平工作を進めるべきじゃない」
という人もいます。
「和平工作は進める。でもそれは水面下でバレないように・・・」
という人も・・・。



それぞれが説得力があり、それぞれが理念も持っています。
その中でどういう道を選ぶべきなのか?



リンカーンは「奴隷制度は絶対に廃止する」という信念に従います。
そのためには「交渉」も「取引」も「嘘」も飲み込みます。
「世界に正義を示す」
そのことに視点を置き、他で妥協しても、その一点では妥協を認めません。
この目線の高さ。
「リンカーンの偉大さ」を本作はそこに見ています。
それでこそ「歴史に耐えうる」のだ、と。
(逆に今から見えれば奴隷制度を守るために汲々とする人々が何と愚かに見えることか。
歴史という視点から見たときの、この「残酷さ」も本作はあぶり出しています)



オバマはリンカーンを崇拝しているとか。
医療保険改革を巡る今のゴタゴタの中で、彼は「目線」を維持することが出来るでしょうか?
本作が突きつけている「現代性」はそう言うことだと思います。



そして「国家はなぜ衰退するか?」を読むと、リンカーンが苦闘と深謀の果てに成し遂げた「奴隷制度廃止」が「黒人の解放」に繋がるまでには更なる多大な労力と時間を要したことが分かります。
大きな「一歩」。
「始まり」の偉大さは、しかし「実現」への賭場口でしかないのです。
いやぁ、考えさせられますよ、ホントに。