鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

読書録「医療にたかるな」

・医療にたかるな
著者:村上智彦
出版:新潮新書(Kindle版)



夕張の医療再生に関わってきた医師による、日本の医療に対する提言の書。
今は夕張は後進に任せて、隣の市で「ささえる医療」の展開に注力しているようだけど、なかなか「熱い」。
医療行政に物申し、患者たちに物申し、労働組合に物申し、医療に携わる人々に物申し、政治家たちに物申し・・・
まあ、自分で
<おそらく私のような人間は、一昔前の日本なら誰にも相手にしてもらえなかったと思います>
という位、「激しい」人物のようだけど、言ってることは「筋が通ってる」と思うな。
「患者」として、「親」として、「社会人」として、僕自身も批判される部分は少なくないんだけど、否定はできないよ。



結局のところ、一歩引いて見ると、こういう状況は「見えてる」んだよね。だけどそこに自分自身のエゴやら、既得権益やら、怠惰やら、複雑な人間関係やらが重なって、結局「先送り」してしまう。
その果てが「破綻」。
それが夕張のような地方自治体だけじゃなくて、日本という国そのものにも及ぶのではないか。
その危機意識が作者を「熱く」しているのだろう。
目の前の不合理に苛立ってる・・・ってのも勿論あるだろうけどw。



作者はこの状況の改善のために「公」という言葉に行き着いている。
ただこの「公」は、一部の保守層が論じるような道徳的な概念と言うよりは、ちょっとした地域コミュニティのつながりのようなイメージだ。
僕自身はこの点に共感を持つ。
戦前に回帰するような「道徳」の押しつけではなくて、自分が生活している「場」(それは「ふるさと」じゃないケースもあるだろう)で「コミュニティ」を深め、そこに「助け合い」の場を形成する。
そういう社会が求められているのは確かだと思うんだよね。
(転勤族の僕の立ち位置はナカナカ難しいんだけさ)
そこに至る道のりは結構険しいなぁとも思うけど。



そういう意味では「ターミナル・ケア」における変革というのは突破口になるかもね。
誰もが「死ぬ」。
そして、今の制度を維持することは物理的に困難であり、その制度そのものに人間性が排除された側面があることを多くの人が気づきつつある。
高齢化が進む「地方」から突破口が開かれる可能性は、こういうところにある気もする。
だからこそ、作者も北海道でがんばり続けているんだろうし。



さて、現役の医療関係者はこの作品をどう読むんでしょうか?
ちょっとそういう意見も読んでみたい気がする作品でした。