鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

読書録「風に吹かれて」

・風に吹かれて
著者:鈴木敏夫 聞き手:渋谷陽一
出版:中央公論社



ロッキンオンの渋谷陽一が、ジブリのプロデューサー鈴木敏夫に、出自から現在(「風立ちぬ」公開)までを聞いたインタビューをまとめたもの。
まあ「風立ちぬ」の宣伝の一貫でしょうなw。もっとも渋谷陽一は鈴木氏のほか宮崎駿氏にも定期的にインタビューをしているから、「大ヒットにあやかって」ってのとは違うと思うけどね。



本書が出版されたのは知ってて、もちろん食指は動いたものの、「今更なぁ」って気分もあって、すぐには購入しなかった。
1890円という値段もあったし、そこそこ分厚いので(400ページ弱)、「重い」ってのもw。「電子書籍になったら・・・」ってくらいの気分かな。



それを思い直して購入したのは、やはり「風立ぬ」の影響だろう。
公開日に観て、自分でも思うところはあったし、色々な人の感想・評論・批判も読んだり聞いたりした。NHKの番組も見たりしている。(半藤氏との対談と「仕事の流儀」)
その流れの中で、「やっぱり読んでおこうか」となったわけだ。
映画を作ったのは「宮崎駿」なんだけどねw。



まあ「ジブリ史」としては面白い作品だと思う。
興行のあたりに踏み込んで色々聞いてるから、これはナカナカ興味深い。
加えて高畑勲と宮崎駿。
なんだかんだ言って、この二人の天才であり奇人とここまでつき合ってきたってのは鈴木敏夫も「ただ者」ではないわけだ。
(本人も含め)色々語られてることだけど、それをこんな風に歴史の流れにそって俯瞰してみるってのも面白いよね。
ジブリができるまでも、数々の会社で「名作」を作っている二人なんだけど、作品を一本作ったら、必ずその会社がガタガタになってるって言うのも、なんとも・・・w。
その理由もよく分かるし、その二人にどう対峙してきたかってのが本書のメインだろうな。
そういう点で興味深く、楽しい作品だったよ。



ただ、インタビュアーがねぇ。
「渋谷陽一」の場合、インタビューをする前に自分自身で「見込み」をつけてるとこがある。その自分の「見込み」が果たしてあっているのかどうか。少なくともこのインタビューはそういうスタンスで臨まれていると思う。
もちろんそれが「はまる」場合もある。
本人も知らない「自分」があからさまになり、そこから作品のテーマが立体的に浮き立ってくるってことだってあるだろう。
(一方で「大外れ」で、全くすれ違ったインタビューになっちゃうこともあるんだろうけど)



本書で渋谷氏は「ジブリ前」の鈴木氏の個人史に立ち入りながら、「高畑・宮崎との出会いの必然」と「天職としてのプロデューサー」という「見立て」に沿った聞き明かしをしている。
多分、この「見立て」は当たっている。「物語」としても面白い。
・・・でも、ちょっと押しつけがましいだよねw。
最後に至って鈴木氏はその「見立て」を認めつつも、「そんなことは考えていない」「過去の話はせずに、今と未来の話しかしない」といったコメントを発している。
インタビューをする以上、どこかに着地点を求めたいってのはわかる。
しかし本人にインタビューする以上、本人にとって「個人史」はon going。
インタビュアーの「決めつけ」が時に不遜なものに感じられるのはその立ち位置の差なのかもしれない。
「見立て」が的確だけに、その不遜さも強く出てきちゃう・・・そんな感じかな。



でも宮崎・鈴木氏のインタビューとしては渋谷氏の一連のものが、まとまっていて、相手に踏み込んだ内容になってるってのも事実だとも思うけどね。
直近の「Cut」の宮崎駿インタビューも力作だったし。



と言うわけで、色々感じるところはありながらも、興味深く一気に読んだ作品でした。
宮崎駿やジブリに興味のない人には全く意味のない本だけどw。