鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

読書録「レイヤー化する世界」

・レイヤー化する世界 テクノロジーとの共犯関係が始まる
著者:佐々木俊尚
出版:Kindle



ネットが社会に及ぼす影響について解説/提言をし続ける作者の最新作。
「書籍」としてはNHK出版から発行されているけど、電子書籍はKindle出版というのは何ともこの作者らしい。
出版タイミングが「書籍」の後になったのは「編集者」との関係かな?
ま、コレくらいのタイムラグなら許容範囲です。



作品としては「中世(帝国)」「近代(国家/資本主義/民主主義)」と社会/産業のあり方を分析・解析し、「現代」のポジションをあぶり出しながら、「未来」の方向性について考察するというもの。
当然我々は「近代」の枠組みの中にあり、思考そのものがその影響下にあるため、その「枠組み」を外れた社会を想像することが困難なんだけど、「中世」の帝国のあり方を丁寧に説明することでその「枠組み」を意識させ、相対化させることから本書は展開している。
「何とも手間のかかる・・・」
ってことなんだけど、必要な「手間」なんだろうね、やっぱりこれは。
そのことが分かっててなお、「近代」の枠組みが僕を捉えて外してないことを考えれば。(これはある意味仕方のないことだとも思うけど)



この作者の場合、テクノロジーの「メリット」にフォーカスし、その影響を強く打ち出すことから、その「未来像」が先走ったものになる傾向はあると思う。
これは多分作者自身の「戦略」(「スタンス」)だと思うんだけど(そうじゃなきゃ、「未来像」を描く意味がない)、本書を読んで思ったのは「国家」からの反動の影響について、もう少し言及すべきではないかという点かな。
最近の安倍政権の言論の自由やメディアに対するスタンスを見ていると、ちょっと気になるんだよ、この流れが。(その流れの向こうにはアメリカやフランスが実施しているという「監視システム」がある)
「権力」に対する迎合するスタンスが日本の場合、強いような気がするってのもあるしなぁ。



作者が描く「未来像」は、「場」が支配し、その上で「レイヤー」化された共通空間を個人/社会/国家が活用する社会・・・って感じ。
これってビジネスの世界では既に「プラットフォーム」という考え方で一般化しているんだけど、それを「社会」のあり様にまで広げたところが本書の特徴だろう。
既に「プラットフォーム」戦略は現実化しており、それがビジネスから行政のエリアにまで広がっている(その状況も本書で語られている)現時点から考えると、これは「夢物語」的な「未来像」ではない。
その分、「驚きがない」って感想もあり得るけど、反動的な気配も感じられることを考えると、この変化そのものはやはり「大きい」と言えるだろう。
その中で(僕自身も含めた)「既得権益層」はポジションを低下させて行く(それは「日本」自体もそう)。
それを支持するか支持しないか・・・とか言ってる間もなく、この「変化」は僕たちを覆ってくるんだろうなぁ。
だったら前向きに捉えるべきじゃないか?
ってのが、僕のスタンスです。



読んどいて損はない作品だと思うよ。間違いなく。