鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

読書録「ファスト&スロー」

・ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか?<上・下>
著者:ダニエル・カーネマン 訳:村井章子
出版:早川書房(Kindle版)



行動経済学の祖と言われ、ノーベル経済学賞も受賞している作者による、はじめての一般向け書籍。
…なんだけど、実に平易に、分かりやすく、それでいて豊富な視点を提示してくれている作品でもある。
実際、文章は物凄く読み易いんだよね。
それでいて、じゃあすぐに読めちゃうか…と言うと、そうでもない。他の本と並行しながらではあるけど、僕は読み終えるのに二週間強掛かっちゃったもん。
でもそこに本書の指摘の重要性があると思う。



基本的に本書で語られているのは、人間が判断する上における二つのシステムについてだ。
「システム1」は直感によって瞬時に判断をする(ファスト)
「システム2」は冷静に、時間をかけて、分析・計算を行い、論理構築から合理的な判断をする(スロー)。
この二つのシステムは補完的に働いていて、通常は非常に上手く機能して人間の「判断」をサポートしている。まあ上手く働いてるからこそ、ここまで人類の繁栄があり得た、とも言えるわけだ。



しかしながら、環境適応優先するところがあるだけに、このシステムは時に「間違い」を犯す。
「分からないことも『判断』してしまう」
「効率を優先し、直感だよりになる」(システム2は怠けたがる)
「環境に影響されやすく、そのことが認識されない」etc,etc…
この「バイアス」に関する研究が「行動経済学」を産み出したのであり、その総括的な作品が本書ということになる。



従って本書にはスンゲェ沢山の「バイアス」事例が載せられてるんだよ。
これらは「通常に判断していると誤った結論選択しがち」な例の山でもあるわけだ。
そういうのをワンサカ読むってのは、こりゃ疲れますわw。
「なんか間違ってんじゃねぇか、俺」
って、ズッと考えながら読まなきゃいけないんだもん(しかも大概は間違ってるしw)。
一気に読む…って感じにならなかったのは、これが理由だね。(それだけ僕の読書ってのは「システム1」的な読み方が多いってことでもあるか。あんま誉められたことじゃないような・・・w)
面白いんだけどな。



まあ「気づき」の多い本で、色んなことを考えさせられる作品だと思う。
その理論をベースにした行政の施策設計なんかもされるようになって来てるらしくて、そう言う観点からは最先端の「実用書」と言ってもイイかも(言い過ぎかw)。



個人的には「稀な出来事に対する過大評価/過小評価」話なんか、まさに東日本大震災後の、特に原発対応をめぐる一連の経緯にドンピシャで、何とも言えない気分になった。
(<最初は発生確率を大げさに考えて課題に重みをつける。ところが時が経つうちにはすっかり無視するようになる>)



ビジネス書が持ち上げる新しい「理論」や「成功例」に対する冷ややかな判断も面白くもあり、怖くもありw。
「(成功の要因としては)せいぜいは30%くらいの影響しかなくて、大半は運」
ってのをどう考えるかかなぁ。
「だから成り行きでいいんだ」
ってことにはならんだろう。
そのことを冷静に認識しつつ、試行錯誤を繰り返し、成功例に捉われない…ってのが重要なことと読むべきはないか…ってのが、今の僕の立ち位置なんだけど。
少なくとも行動よりも熟考を重視しすぎることはあまり意味がないかも、とは思ったな。



ま、間違いなく、重要な内容を満載した作品。
一度は読んで損はないと思います。
…時間はかかるかもしれないけどw。