鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

読書録「MAKERS」

・MAKERS  21世紀の産業革命が始まる
著者:クリス・アンダーソン 訳:関良和
出版:NHK出版



「フリー」「ロングテール」の作者による新作。
作者自身、本作発表後、ワイアードの編集長を降りて「MAKER」の途に足を踏み入れたとか。(模型飛行機制作会社の経営に専念するとのこと。会社経営自体は前からやってたようだね)
まあ「デジタル」が「製造業(メーカー)」に影響を及ぼし、産業構造そのものを変革してしまうことを論じてるんだけど、正直、
「そこまで行く?」
って読後感はあるw。
ただ作者自身が例として上げているように、10年前のドットプリンターはみるみる進化して、今では当時のメイカー水準を凌駕するようなレーザープリンターが、安価でどの家庭にもある時代となっている。
20数年前、PCどころかワープロもなかった職場が、一人一台のPCが当たり前になって、そこにタブレットさえ広がり始めてる・・・ってのは僕自身の実体験でもある。
「フリー」「ロングテール」さえ当たり前の時代になってるからねぇ。
こういう時代が来ないとは、誰にも言えないんじゃないかね。



時代の萌芽を捉えてるだけに、本書で紹介される事例はある意味多岐にわたっていて、整理されていない面もある。
どういう方向性に時代が動いて行くのか。
それはコレから次第ってのは確か。
コアになるのはデジタル技術の進展による「デザインのデジタル化」だろう。
これが簡単にできるにできるようになったことと、他の人が作ったデジタルデザインの利用が広く可能になったこと(「フリー」「シェア」)、デジタルデザインから製品を製造する手段が身近になってきたこと。
こういう環境がベースにある。



ただ「製造」の部分は結構難しくて、

・3Dプリンター等による個人の製造
・委託製造の普及(キンコーズのメーカー版みたいなものかな?)
・グルーバル化による他国での委託製造の展開

等が例示されてる。
個人使用、ニッチマーケット対応、新しい製造業スタイル・・・って整理してもいい。
まあこれらのスタイルが混ざしているってのが現状だろうし、将来的にも「どれか」に集約することはないだろう。
その展開度合いによって「産業」としてのインパクトは変わってくるだろうけど、ポイントとなるのは「個人のアイデア(コンセプト)が活かされる」ってことだろうね。
そこがデジタル革命を追いかけてきた作者のテーマに繋がるところだろうと思う。



デジタル革命については、そのインパクトを否定する人は今やいないだろうけど、「実体経済における産業規模は小さい」ってことは従来から言われてきていた。
アップルやフェイスブックがどれだけもてはやされても、「雇用」という面でのインパクトが大きくないことは、アメリカ経済の低速状況の解説においてサンザン言われてきたことでもある。
「ビッド」(デジタル)と「アトム」(実体経済)との関係。
要はソコだ。



作者は今の時代の方向性が「ビッド」が「アトム」に影響する転換点にあると考えている。
「メイカーズ」ってのはそういうこと。
僕自身、まだまだ懐疑的なところはあるんだけど、「もしかしたら」って思いもあるよ。
最近3Dプリンターが紹介されることが多いけど(本書の影響もあると思うけど)、「おお!」とは思うからね。
もう少し身近で性能が高くなれば僕も・・・と思わせるあたりに、「可能性」を感じたりもする。



まあでもアメリカ人って、DIY好きだからなぁ。
「メイカーズ」ってのは、そういう意味じゃ極めてアメリカ的でもあるよ。
これが日本だとどうなるかなぁ。
もう少し「委託製造」の部分が強くなるんじゃないかと思うけど、著作権のところが妙に保守的なのが・・・。
「作り込み」(デザイン)が得意ってのはプラスだろうけど。



何にせよ、時代の向こうを眺めるのに、実に刺激的な作品であるのは確か。
一読の価値はあります。