鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

読書録「なぜ国家は壊れるのか」

・なぜ国家は壊れるのか イタリアから見た日本の未来
著者:ビル・エモット 訳:烏賀陽正弘
出版:PHP研究所



「日はまた沈む」「日はまた昇る」の元エコノミスト編集長ビル・エモット氏の新作。
イタリアの現状と課題、その克服のための「希望」について語りつつ、日本との比較において日本への処方箋も提示する作品。
・・・なんだけど、「日本との比較」ってのは、日本版向けの「特別章」。ぶっちゃけ、「つけたし」ですw。
基本的には「イタリア」について語った作品ですな。
確かに「日本」にも通じるところもあるけど、当然条件の異なるところも少なからずある訳で、そこからどのような「教訓」を得るかってのは、これは読むものそれぞれでしょう。
無理矢理「日本」に引き寄せたりせずに、まずは「イタリア」の状況を語ってもらうってスタンスでいいと思うよ。
(自ずと「日本」との比較は考えるようになるからね)



まあそれにしてもベルルスコーニの評価は惨憺たるもんだねw。
作者は長くベルルスコーニと係争中のようだから(この「長さ」がイタリアの課題の一つでもある)当然かもしれないけど、民間放送会社を独占的に握っているベルルスコーニの問題ってのは客観的にもあるだろう。
むしろこういう「分かりやすい悪役」(w)がいることが、課題の本質を見えにくくしているってとこがあるかもしれない。
確かに彼は「バッド・イタリア」を代表する人物ではあるけど、「バッド・イタリア」そのもの・・・ではないからね。
「バッド・イタリア」は究極的には個々人の内面に巣食っている。
課題の深刻さはそこにあるといってもいい。



作者自身のスタンスは基本的に「新自由主義」にある。
従って「グッド/バッド」の基準は「競争」「グローバル」「イノベーション」といったところにあり、この欠如、これらの伸張を阻む制度や習慣が「バッド」として指摘されている。
「リーマンショック」以降の社会を見る上において、こういう括りはあまりにも単純すぎるようでもあるけど、保守勢力(そこにはマフィアさえも含まれる)による既得権益の囲い込みが激しすぎる「イタリア」においては、あるいはこういう処方箋に意義がある言えるのかもしれないね。
貧富の差が固定的であるとすれば、そこに「既得権益の壁」がある・・・という見方も出来る。
ここらへんはナカナカ難しいところだけどなぁ。
(「アメリカンドリーム」が、実際には「既得権益の壁」の目くらましになっている側面があるように)



さてでは「日本」はどうか?
「消費税増税」を決めたことで(何やら不穏な雰囲気はあるけど)、財政悪化に対して無力でないことを示したという点は評価できるのかな?(時期ややり方について異論があるのは当然だし、僕も問題だと思っている)
しかし世代間問題を含めて、社会の構造を、新しい世界環境に合わせて修正しきれずにいる・・・ってのは確かだろう(それ故の「失われた20年」だからね)。
ここら辺は確かに「イタリア」に通じるところはあるように思う。
だが「グッド」の裏には破壊的な変化の力があり、「バッド」の裏には互いを助け合うような社会的な紐帯がある。
この「グッド/バッド」のコインの裏表をどうやって政策/制度の中に織り込んで行くべきなのか?
実際の処方箋はナカナカ難しそうではある。



そこを判断して行くのが、究極的には「政治」なわけだけどね。
ここがまた・・・。
とか愚痴を言ってても仕方ないので、まずは自分に出来ることをやり、社会に対しても発言して行く。
結局はそういう地道なことこそが重要なのかもしれない・・・と最近思っております。