鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

読書録「戦後史の正体」

・戦後史の正体 1945−2012
著者:孫崎亨
出版:創元社(戦後再発見双書)



元外務省の役人が、日本戦後史を、
「対米追随派(米国に従い、その信頼を得ることで国益を最大化しようとした人たち)」と「自主派(積極的に現状を変えようと米国に働きかけた人たち)」の路線のせめぎ合いという視点から、
「米国からの圧力と、それへの抵抗」という軸で概覧した作品。



いやぁ、実に興味深く、面白かったなぁ。
作者の作品としては「日米同盟の正体」も面白かったけど、本作はそれを凌ぐ出来だと思うね。
ま、色々差し障りはあると思うけどw。



指摘されている個々の事象については、別に「スクープ」的なものはない。
ただそれを「対米追随/自主」という視点で整理をしたとき、浮かび上がってくるものが、単なる「スクープ」を越えた重い衝撃として立ち現れるのは間違いないと思う。
まあ一言で言えば、

「アメリカという『大国』を前にして、『小国』日本がどのように自らを堅持して行くか。そこには深い知恵と胆力が必要とされる」

ってことなんだろうね。
考えてみれば、戦前の軍国主義、戦後の高度成長期において日本が自分を見失ったのは、「日本が小国である」というリアリティなんじゃないかな。

太平洋を挟んだ「アメリカ」
日本海を挟んだ「中国」「ロシア」

こうした「大国」に如何に対峙すべきかを真剣に考え、国の方針をギリギリの線で運営したのが「維新前後」から「日露戦争」あたりまでであり、あるいは終戦後から高度成長期あたりなんじゃないか、と。
そのことを忘れ、自らを大国に擬してしまったところに、昭和初期の軍部の暴走(その背景には世論がある)・バブル以後の日本の低迷があるとも言える。
ここら辺は内田樹氏の「日本辺境論」にも通じるかなぁ。
実に考えさせられるね。
(このタイミングで「維新」を掲げた政治勢力が現れているのも、何やら・・・)



勿論、本書の立場をストレートに信じるのもどうかってのもあるよ。
作者は外交官出身ではあるけど、いわゆるアメリカンスクールに属した人ではない。
それだけに客観的に見れたってのはあるかもしれないけど、「本質」を知ることができていないって可能性はあるだろう。
民主党政権(特に鳩山政権)との距離の近さも念頭に置くべきだとは思う。(僕自身は、作者の鳩山政権の肯定的評価には頷けるものがあるけどね)
「対米追随派」として「吉田茂」への評価は非常に厳しいものがあるけど、あの時代において国家の方針として「自主派」が主流たりえたか、その場合の日本の姿はどうであったかを「if」として考えてみると、これはこれで一考に値するだろう。(もっとも白洲次郎も言ってたように、講和後も吉田茂が政権を握ったことについては、作者同様、僕も問題が多かったとは思うけど)
作者自身もまた一定の政治的意図は当然あるだろうから、そこはそれとして評価する必要があるとは思う。



まあでも一読に値する作品であることは間違いないよ。
日本近現代史を考える上において、重要な視点を提示してくれる一冊です。