鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

読書録「選択の科学」

・選択の科学 コロンビア大学ビジネススクール特別講義
著者:シーナ・アイエンガー 訳:櫻井祐子
出版:文藝春秋



引越しのドタバタで、ここのところ読書時間が殆ど取れなかった。
加えて今度の通勤ルートは以前に比べてユックリ読書できないというのもあって、読書量がガタッと減ってる。
ここら辺、考えないとなぁ・・・と思っている今日この頃。



本書は引越し前から手を付けてたんだけど、読了するのに時間がかかったのはそういう背景があってのこと。
時間はかかったけど、作品自体はかなり面白いものだった。
「白熱授業」以来、この手の「大学の講義もの」は流行になり、若干食傷気味な面もあるけど、基本的には「質は悪くないなぁ」と思ってる。
バンバン読みたいかって言うと、そこまでではないけどねw。



本書は「選択」に関して色々な考察をした作品。
「選択」が持つ「歪み」については、本書でも言及されている行動経済学なんかで随分と取り上げられていて、その手の本を読んでいるものにとっては、本書で取り上げられる実験の少なからずが既知のものになってると思う。
「行動経済学」関係の作品は一時期、僕も良く読んでいたので、そういう意味では「それは知ってる」ってことが本書についても少なくなかった。



それでいて本書が面白いのは、単に「選択」の限界を論じるだけではなく、「それでも『選択』は人間に取って重要なのだ」というスタンスをベースとしているからだろう。
そのスタンスが、「選択」の制限の重要性を論じながら、「選択」そのものは肯定する終盤の論に表れている。
「選択は本能である」
であれば、そこには「現実」が包含されている。
このグレイな判断こそが、「選択」のもつ本質なのかもしれない。



僕自身は「選択」については、「選択されなかった選択肢」の問題として、学生時代から認識してきたところがある。(勿論、いつも考えてた訳じゃないよw。「折に触れて」って感じだけどね)
「選択肢が増えすぎることは利益にならない」
という実験は有名だけど、例えばコレは「選ばれなかった選択肢に対する『後悔』の念が満足感を阻害する」と考えると、納得いくんじゃないか・・・とかね?



その一方で、人間は「選択」をしなければ次の行動に移ることが出来ないのも事実。
「行動」することが局面を打開することにつながると考えれば、「選択」そのものが人生において極めて重要なのだという作者の主張にもつながる。
そのとき、「選ばれなかった選択肢」に対する「責任」を背負うことが、「選択」/「行動」そのものを深くするのではないか・・・って言うのが僕の「選択」に関する思索なんだけど、まあコレは別の話w。
ここら辺は丸山真男でも読みながら考えますかね。



本書の現代は「The Art of Choosing」。
本書の論調を考えると、「Art」は「芸術」と訳しても良かったかも。
最終的には「論理性」よりも「倫理性」が前に出ているようなところがあるし。(そのことが本書の価値を減ずるものでは全くない)
アメリカのこの手の作品らしく、実例/実験例が豊富に含まれていて、読み物としても十分楽しめる内容になっている。



前評判通り、面白い一冊でしたよ。