鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

読書録「天地明察」

・天地明察<上・下>
著者:冲方丁
出版:角川文庫



うん。
コレは面白い。
本屋大賞ほか色々な賞を受賞してるのも納得。
同時に「直木賞」を受賞できなかったのも、分かるね。



基本的には「青春小説」。
渋川春海が、色々な人と出会い、その人たちの支援を受け、同時にその人たちの「願い」を背負う形で、「改暦」の大事業に臨む・・・という物語だ。
物語の重心は、この「願い」や「想い」を背負う過程にあって、後半、「改暦」を実現する過程はやや駆け足な印象がある。
ここも面白そうなので、不満といえば不満なんだけど、「青春小説」として考えると、このバランスが「正解」なんだよね。
それゆえに、本書の読後感は爽快だってのもあるだろう。
最後の過程には策謀が巡らされた部分もあり(軽く言及もされている)、そこを同じ重みで描いたら、本書の読後感は大分違ったものになってたと思うよ。



あとキャラクターもとしては渋川春海の二人の妻がいいね。
後妻となる「えん」はヒロインとして好感が持てるように描かれているのは当然として、特筆すべきは早世する前妻の「こと」も非常に好感度高いコト。
これはキャラ設定としては珍しいんじゃないか、と。
そしてそのことがまた、爽快な読後感につながっていると言う・・・。



まあ見方によっては「でてくんの、ええ人ばっかりやん」とも言えるし、そこに直木賞に足りない「何か」を見ることは間違いじゃないと思う。
間違いじゃないけど、やっぱり本書はこれでいいんだよ。
そう言う稀有なバランスを持った作品と言うのも、個人的な感想にある。
(もっとも僕はこの作者のほかの作品を読んだことがないので、それが作者の特質なのか、本書だけの「奇跡」なのかを判断することはできないけどね)



今年、映画化されるらしいけど、「えん」や「こと」はどう描かれるんだろう。
宮崎あおいが「えん」を演じると発表されてたけど、「こと」は?
もしかしたらカットされるのかなぁ。
バランスとしてはそう言うまとめ方も分かるけど、作品の魅力としてはどうかなぁ、と。



まあ、映画と原作は別物だから、危惧すべきようなことではないのかもしれないけどね。