鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

読書録「銃・病原菌・鉄」

・銃・病原菌・鉄 一万三000年にわたる人類史の謎<上・下>
著者:ジャレッド・ダイアモンド
出版:草思社文庫



正月(1月3日)の朝日新聞にダイヤモンド博士のインタビューが掲載されていた。
「環境」を重視する博士が「原発推進」を主張する事にインタビュアーが苛立ちを垣間見せる点も含めw、結構面白い内容だった。
僕の75を超える父親がこの記事を読んで、
「これは読み応えのある記事だ」
と言っていたのが印象的だった。
本書についてはもちろんその高名は知ってたけど、文庫化したのを買う気になったのは、その時の記憶があったからかな?
まあ、父が今更本書を読むとは思えないけどねw。


本書の執筆動機、主張のポイントは作者自身が最初に明らかにしてくれている。


<われわれは、西暦一五00年の時点の人類社会の差異を、生物学的に説明しようとすることは間違いであると確信している。(中略)大半の人びとは、人類社会の歴史に見られる大きなパターンについて、詳細かつ説得力があり、納得できる説明を手にするまでは、相変わらず生物学的差異に根拠を求める人類差別的な説明を信じつづけるかもしれない。私が本書を執筆する最大の理由はここにある。>(P.45)
<歴史は、異なる人びとによって異なる経路をたどったが、それは、人びとのおかれた環境の差異によるものであって、人びとの生物学的差異によるものではない>(P.45)


自分で言ってるんだから、これ以上付け加える事はないかもw。
題名の「銃・病原菌・鉄」ってのは、ヨーロッパが世界を支配して行く上において直接の「力」となった要素をあげてるんだけど(それにしても「病原菌」の威力には驚かされる)、本書はさらに一歩進んで、
「なぜそれがヨーロッパ文明に与えられ、被征服文明には生まれなかったのか」
を論じている。
一言で言えば、「環境の差」。
もう少し付け加えると、
「人口密集のベースとなる食料生産」
「生産性向上・軍備拡大・病原菌の免疫を支えるベースとなる(大型」家畜の可能性」
「農業・技術・文明・政治体制等の伝搬が容易な地形」
等の「環境」と言ってイイかな?(何かもれてるような気もするけど)


これらのことを実例をあげながら丁寧に説明してくれるんだけど、その博覧強記ぶりにはチョット圧倒されてしまう。
あんまり圧倒されるんで、ツッコミどころを探す気にもなれないくらいw。
カリフォルニア大学の医学部教授で分子生理学と進化生物学を専門にしながら、分子生物学、遺伝子学、生物地理学、環境地理学、考古学、人類学、言語学についても詳しいという作者ならではの作品とも言えるだろう。


正直言って、作者が言ってることが正しいのかどうか、僕には判定するだけの知識も能力もない。
ただただ圧倒されながら本書を読み進めるだけだった。
ただ「人類差別的な説明」を退けようとする作者の意図には強い賛意と尊敬を覚える。
本書の一番の「価値」はそこにあるのかもしれない。


上・下で「800ページ」。
まあ大部ではあるけど、印象ほどには読みづらい作品ではないよ。
朝日新聞で「2000年代に記憶に残った50冊」の第一位になった作品。
それだけの価値はあるかと。