鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

読書録「ユーロ・リスク」

・ユーロ・リスク
著者:白井さゆり
出版:日経プレミアシリーズ



何かのブログを読んでて、
「ユーロ危機に関してはこの本が最も分かりやすい」
とのコメントがあったのを覚えてて購入した作品。
「確かにね」
って感じだ。


本としては2011年6月に発売されてるんだけど、内容は震災前にまとまってたらしい。
従ってココのところの「ユーロ」を巡る動き(大幅な「ユーロ安」が進行している)はカバーしてない。
むしろユーロ危機が一服したタイミングに書かれているので、立ち位置は今からみると違和感あるかな?
ここ数日、金融情勢は好転してるようにも見えるけど、「ユーロ・リスクが解消に向かってる」と言うには尚早だろう。


にも関わらず本書が「ユーロ」の現状を把握する上において今もって役に立つのは、本書の指摘が本質的なところをついているからだろう。
逆に言えば、本書が有効だってことは、ユーロ危機の本質は未だに解決されてないってことでもあるんだけどね。


本書で作者はユーロ圏を、「国家の債務返済能力」と「純対外債務規模」から、「高リスク国」「中リスク国」「低リスク国」に分類している。
債務返済能力が低く、対外債務規模が大きい国を「高リスク国」、逆を「低リスク国」、どちらにも属さない国を「中リスク国」…と言う訳だ。


具体的には以下のようになる。


高リスク国:ギリシャ、アイルランド、ポルトガル、スペイン
低リスク国:ドイツ、フランス、オーストラリア、オランダ、フィンランド、ルクセンブルク
中リスク国:イタリア、ベルギー、スロバキア、スロベニア、エストニア


そしてそれぞれのグループの特徴、課題を分析し、さらにグループ内でのポジションの差についても言及している、
このことでユーロ圏全体の見取り図みたいなものが頭に入ってくるんだよね。
本書のメリットはそこにある。
そしてユーロ危機の展開が、ほぼ本書に沿った形で動いているように見えること。
本書の信頼性はそのことで高まっている。


「ユーロ圏はヨーロッパの南北問題だ」
って誰かが言ってたけど、その本質的な解決には時間がかかるだろう。
当面は北=低リスク国による援助でしのぐとしても(今はこの段階)、本質的には南=高リスク国の変革が求められる。
それを受け入れるだけの政治的・社会的決断が出来るのか?
煎じ詰めればポイントはそこかもね。


本書を読みながら、「高リスク国」の求められる変革の条件を見て、僕は日本のことを考えていた。
日本が高リスク国と異なるのは、日本が巨額の対外債権を持っているからだろう。
その債権は継続的な「経常収支の黒字」によって支えられている。


しかしながら先日報道があったとおり、震災やタイの洪水、燃料費の高騰等の影響で2011年は63年以来の貿易赤字に日本は転じている。
経常収支の黒字は維持しているものの、重要な構成要素である貿易収支が赤に転じ、環境的には当面の継続も考えられるとしたら…。
日本とユーロ高リスク国との差はどこにあるのだろうか?
そんな視点でユーロ・リスクと、高リスク国に求められる施策を眺めると、自ずと厳しい日本の将来が見えてくる。


まあ野田政権もそれは認識してるんだよな。
だからこその「消費税増税」だろう。
もちろんその進め方には異論があるんだけど、それは本書とは関係ないw。


「日本とユーロでは違いが沢山ある」


おっしゃる通り。
ただ「他山の石」として得るべきものもあるのではないか、と。
そんなことを考えさせる一冊。