鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

読書録「日本人がグローバル資本主義を生き抜くための経済学入門」

・日本人がグローバル資本主義を生き抜くための経済学入門 もう代案はありません
著者:藤沢数希
出版:ダイヤモンド社



無茶苦茶クレバーな作品。
自由主義の立場からグローバル資本主義の中身と、世界・日本の経済状況を分析してるんだけど、 クレバーかつ分かりやすい内容になっている。
正直、数式のところは「斜め読み」 だったんだけどw、
「おっしゃる通り」
って感じだったなぁ。
いっそ気持ちイイくらいだったよ。
作者に言わせりゃ、例えば今のTPPを巡るアレヤコレヤなんか、
「何やってんの?」
って感じだろうなぁ。


現在の世界経済を把握する上で、作者の分析に反対するつもりは全くない。
市場経済を最も効率的に動かすように政策を遂行しつつ、セイフティネットや機会平等のための 手当をしっかり行う。
このスタンスも十分理解できる。
ここを混同しちゃって政策の方向性が見えなくなっちゃうような事態(今の日本の状況はそれに近いかも)は、僕も苦々しく思ってるからね。


まあ問題は「どう言うセイフティネットを 、どこに講じるか」かなぁ。
ここには論理を超えた「哲学」が絡んできたりするからね。
例えば、「農業保護」については僕は「自給率」より、「国土保全 」の方が重要だと思っている。
だから「農業保護」ではなく、「国土保全の観点での政策に切り替えるべきだ」と考えてるんだけど、 生き方としての「農民」に価値を置く見方だってあるからね。
その場合、セイフティネットのあり方自体が議論になっちゃう。


いや、これは議論になっていいんだよ。
本書が分析してるようなグローバル資本主義の前提が共有されていて議論するのであれば、それはそれで建設的だと思う。
その共有がされてないことが今の問題だし、だからこそ本書の意義が高いとも言えるかな。


あと「政府」に対する信頼感もねぇ…。
「セイフティネットを講じれば」
って、それを実行する政府のどこまで信頼を置いていいものか。
これも建設的議論の阻害要因なんだよな。
震災以降、その信頼感の欠如が可視化されちゃったようなところがあるから、なおさら…。



しかしインフラが整い、IT技術が進展した現代におけるグローバル資本主義の速度は、EUの状況を見てても恐ろしく速い。
その中で否応なく我々は選択と決断をしていかねばならない訳だ。


そこではもう「走りながら考える」しかないんだよね。
その時重要なのは、大怪我しないように「方向性」だけは間違えないようにすること。
本書が記しているのは、その「方向性 」だと思う。


色んな意見があって当然だと思うし、僕も方策については同意できないところもある。
それでもなお、現場分析として本書は秀逸だと思うよ。


一読の価値は間違いなく「アリ」です。