鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

読書録「検証 東日本大震災の流言・デマ」

・検証 東日本大震災の流言・デマ
著者:荻上チキ
出版:光文社新書


今回の「東日本大震災」で飛び交った流言・デマはかなりの数になるだろう。
その要因の一旦はソーシャルメディア等の発達。
これにより、従来の口コミ・マスメディアに頼った情報伝播とは格段に速度・範囲の違う流言・デマが飛び交ったと思う。
本書ではその一端が紹介されているが、大半は僕もネット経由で知ってたよ。



一方でその大半の情報をかなり早い段階で「デマ」と認定できたと言うのもある。
これもソーシャルメディア等による「否定」がかなり早く出回ったおかげだろう。
そういう意味では今回の東日本大震災の流言・デマに致命的なほど振り回されて、というのはなかった。
これは全体的な傾向であろうとも思う。
本書ではその仕組みについて「コスモ石油千葉製油所」に関するデマ(「化学物質が混じった雨が降るから危険」等)を取り上げ、情報を検証することで「その情報はデマ」という「中和」情報が効果的に機能する様を検証している。
実際、コスモの情報についてはかなりこれが上手く機能したと思うし、多かれ少なかれ、今回の流言・デマに関してはソーシャルメディア等のITツールが「中和」作用を発揮してくれたと思う。
この点もかつてには考えられない速度と伝播力だった。
(個人的にもリテラシーが随分と上がったと思う。特に「RT」「拡散希望」情報にはねw)



勿論、「それで良し」とする訳じゃない。
中和情報が出ると言っても、タイムラグは確実にあるし、情報が伝わるタイミングにバラつきもある。
「情報格差」や「情報弱者」の問題もあるだろう。
そういう中でに深刻な被害や障害が出る可能性もあるから(救援関係のデマにはそういう要素が強かったと思う)、今回の状況を踏まえて、ネット規制の動きが出てくることも分らないではないかな。(僕は反対だが)
ここらへんは今後改善や対策を考えるべきであることは確かだろう。



それでもなお、僕は今回の状況が「情報開示」の重要性が浮き彫りにしたと考える。
これは「情報コントロール」を過度に行った結果、信頼感を失ってしまった福島原発での政府・東電の対応と比較すると良くわかる。
確かにソーシャルメディア等のITツールの発達により、流言・デマの「量」は高まったろう。
しかしながら同時にそのITツールがあればこそ、流言・デマの検証が早期にされるようになり(本書の作者のアクションなどはまさにソレ)、「中和」も早く機能することになった。

このメリット部分を最大限に享受しつつ、デメリットを最小化するためにはどうするべきか?

考えるべきはその方向であり、情報の透明性を高める方向にこそ、その「解」はあると、僕は思っている。



ちなみに今回の大震災での流言・デマで(今のところ)深刻な被害が出ていない原因には、「歴史に学ぶ」という側面もあるんじゃないかね。
関東大震災、阪神淡路大震災の経験、特に関東大震災でのデマに端を発する朝鮮人大虐殺の知識は、情報に対する一定の「歯止め」として働いたんじゃないかと思う。
今回、随分外国人犯罪に関する情報が飛び交ったけど、「否定情報」が出る前に引っ掛かりを感じたのは、関東大震災時のデマに関する知識があったからだ。
本書にも書かれている通り、今回の震災の中で、外国人に対する差別的発言は結構ネット内に溢れた印象がある。
にもかかわらず、それらが深刻な暴動等につながらなかったこと。
そこには「歴史に学んだ」日本人の知恵があったのではないか。

・・・個人的にはそう思いたいところなんだけど、いかがでしょうかね?