鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

娯楽小説として申し分ないです:読書録「葬られた勲章」

・葬られた勲章<上・下 >

著者:リー・チャイルド 訳:青木創

出版:講談社文庫(Kindle版)

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トム・クルーズが映画化したことでも知られる<ジャック・リーチャー >シリーズの、日本翻訳の最新作。

日本では「最新作」ですが、本国で出版されたのは「2009年」、現在24作まで出版されているシリーズの13作目…と言うことです。

 


とは言え、それほど「時代」は感じさせませんがね。

「ウサマ・ビン・ラーディン/アルカイダ」が健在なのと、「スマホ」が登場しないくらいでしょうか。

(携帯電話を持ってないことで、リーチャーは揶揄され続けますが、今じゃそのポジションはスマホに取って代わられてますよね)

 


リーチャー・シリーズの特徴は「程よいミステリーと、激しいアクション」。

僕がシリーズで読んでるのは第1作と映画化された2作の原作だけですが、いずれもこの線です。

本作についても前半はミステリー展開、後半は「追いかけっこ」から、ちょいグロのアクション…となっています。

オチとしてはスカッとしない部分もありますが、まあそこは「マクガフィン」なんで、シリーズの「売り」の部分は高水準でクリアしてる作品と思います。

楽しませてもらいました。

 


まだ読んでない翻訳作もあるんで、「次」に行ってもいいんですが、このシリーズ、「当たり外れ」が大きいことでも有名なんですよね〜w。

行くなら、「前日譚」かな。

あっちは評判いいのでw。

 


まあ、「時間が空いたら、リーチャーがある」って覚えときゃいいか。

電子書籍は「欠品」をあんま気にしなくていいのが、良いとこです。

「進めてみて、マズいところがあったら修正する」という線しかない:読書録「虚妄のIT立国ニッポン」

・虚妄のIT立国ニッポン

著者:新型コロナ問題取材班ほか

出版:宝島社

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「技術のニッポン」

とか言って「過去の栄光」で自分を誤魔かすんじゃなくて、

「決定的にデジタル化は欧米にも、アジアにも遅れていて、ここで舵を取り誤ったら、国家としての衰退の道を歩んでいくしかない」

くらいの気持ちで取り組んでいかなきゃいけない。

 


…ってのが読後感ですかね。

そのことが、この半年の「コロナ騒動」でよく分かった。

 


本書は「7月22日発行」ですから、情報としては少し古いところがあります。

決定的には「安倍退陣/菅政権発足」がフォローできてないこと。

ただコロナ禍での日本のデジタル化の壊滅的な状況ってのは、この時点で既に炙り出されていて、そのフォローはできています。

ま、この状況を政府サイドも認識してて、菅政権は「今のところは」そのフォローに力を入れてる・・・ってとこでしょうか?

 


本書はムック本なんで、「日本のデジタル化の状況」と言う視点は共有しつつも、執筆者ごとにいろいろな論点が持ち込まれています。

目次はこんな感じ。

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大きく言えば、

「デジタル化がヤベェくらい遅れてるぞ!大至急なんとかせんと!」

と言う方向と、

「デジタル化が進むと、個人情報やら、ビッグデータやら、ちょっとマズい社会になっちゃうかもよ」

と言うネガティブ方向。

…でもまあ、軸足は前者にあるし、僕のスタンスもそっちですね。

コロナ禍でよくよく分かった惨憺たる状況を考えたら、多少のリスクはあっても前に進んで、何か問題があったら、そこの手を打っていく(場合によっては修正する)しかないでしょう。

今更「ハンコ」とか…。(かつて印鑑業者団体が如何に抵抗してきたか、その「成果」も含めて記事があります。今もその気配がありますね)

 


進めていくとしても、

中国・韓国・台湾のような、「多少、個人情報が行政に利用されても、効果的な監視・管理制度を作る」

欧米のような、「個人情報に最大限留意しながら、民間の力を活かした体制とする」

か。

前者だと政府サイドの力が強くなりすぎる懸念。

後者だと効果的なパンデミック対策が打てない上に、格差も拡大する懸念。

まあ、この間くらいが日本のスタンスでしょうが、個人的には前者寄りの方が向いてるとは思いますけどね、日本の場合。

その前に、「デジタル化」を進めるのに失敗するリスクも少なからずあるんですが!

「大笑い」させてもらうつもりだったんですが…:読書録「悔しみノート」

・悔しみノート

著者:梨うまい

出版:祥伝社

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<「ジェーン・スー生活は踊る」のお悩み相談コーナーから生まれた本>

 


…ってことで、「これは楽しく笑えそう」と、深く中身もチェックせずに購入したんですが…。

 


…いやぁ、なんだろ。

笑えるとこもあるんですけど、全体としては…「しんどい」。

一気に読み終えたので、「読ませる」のは間違いないんですが、「楽しめる」って感じじゃないんですよね。

「25歳」?

若さってのは確かにあります。

 


その自尊心の高さ、現実とのギャップから生じる自己評価の低さ、拗らせちゃった「嫉妬心」、そういった諸々に対する嫌気、その果ての自己評価のマイナスの連鎖…

 


自分にもそう言うことがあった。

それを乗り越えてもきたんだけど、それを抱えるだけの体力がなくなってることも、また確かで…。

なんか、身につまされるというか、羨ましいというか、不思議な読後感でした。

 


「はじめに」

にこのスタートの経緯が記されていますが、そっから出てきたのが、こんなもんだってのがまた…。

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いや、「才能」はあるよ。

それがどういう方向に向かっていくのかは、僕にも分かんないけど。

 


基本的には「嫉妬心」をキーにした映画・ドラマ・本・演劇等の「評論集」みたいなもんかな〜。

でもそこに収まらない「何か」こそが読みどころと言いますか。

 


「読ませる」ものは確かにあるし、作者の「今後」が見てみたい気持ちにもなります。

…ちょっと心配なとこもあるけど。

西欧的民主主義が日本には根付いていないから、日本らしい方法で…とか言い始めるとヤバイとは思ってます:読書録「たちどまって考える」

・たちどまって考える

著者:ヤマザキマリ

出版:中公新書ラクレ

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ヤマザキさんがそう考えてるって訳じゃないんですよ。

 


<ここまで書いてきて感じているのは、日本はもしかすると、成熟すること自体に興味がない国なのかもしれな、ということです。日本へやってきた多くの外国人がかつて覚えた印象通り、無邪気で天真爛漫で、時々背伸びを楽しみたいだけの国かもしれない。

だとしても、世界的な先進国の基準に合わせたいという必要があるのなら、時々でも俯瞰で、自分たちの生きる国にどういう特徴があり、どんな歴史をたどってきたのか、そして私たち日本人がどういう民族でどんな性質をもっているのか、振り返ったほうがいい。過去の失敗も欠点も反省点も踏まえたうえで、文化人類学的な視点も借りながら客観的に見直す目を、もっと養ってもいいような気もします。>

 


この後段が重要で、僕も全く同感なんですが、一片、

「無邪気で天真爛漫で、時々背伸びを楽し」むんでもええやん!

と思わなくもない時もあったりして…w。

まあでも、「欧米のやり方だけが正しい訳じゃない」「我々には我々のやり方が」…とかいう時には、だいたい自意識が変な方向に肥大化してるってのがパターンですからね。

もちろん「欧米万歳」って話でもありませんが。(それはそれで思考放棄してるだけ)

 


コロナ対策については、結構それぞれの国の文化的な背景や、医療制度のあり方が、感染者数・死者数の増大に関係してるんじゃないか(逆に言えば、遺伝子とかはあまり関係ない)と、僕は考えるようになっています。

「ファクターX」があるとすれば、それは文化的・制度的なもの…ってことですね。

 


医療崩壊を起こし、死者数が爆発的に増えた「イタリア」について、そこら辺りのことを知りたくて、本書を読んでみました。(イギリスに関してはブレイディみかこさんの著作が参考になりましたので)

「財政悪化に伴う医療制度の効率化(縮小)」

医療崩壊を招いてしまった直接的なキーは、ここにある…ってのは確かなようですね。

同時に濃厚接触を良しとする文化的背景(ハグ、キス、握手、会話重視等)、高齢化の進展と高齢者との距離感等がそこに拍車をかけた…というのがヤマザキさんの推理。

…まあそうかなと思います。(「答え」はまだまだ出ていませんが)

 


意外だったのは「中国」に対する反応でしょうか。

イタリアでは「中国」への反感というのはほとんどないとか。

その経済的・歴史的背景とか、それを許容する歴史観とか、ここら辺の話は「へぇ」って感じもありました。

まあ経済的に独立してやっていけるような国じゃない…ってのがイタリアの宿命ってのは、確かにあるでしょうから。

その「重み」を通してみたら、確かに日本の有り様は「天真爛漫で軽い」と見えても仕方ないかもしれませんw。

 


ヤマザキマリさんの「教養」の厚さや、日本を外から見る「視点」等、なかなか興味深い本ではあります。

(日本批判的な論調が前に出るのは、本書の性格上、仕方がないでしょう。決して「イタリア万歳」「西洋万歳」ってスタンスではありません)

同感できるとこともあれば、「それはどうかな」って思うところもあり。

でもそういうことを考えさせるってのが、こういう本の役目でもあるか、と。

「漫画家は漫画描いてりゃいいんだよ」

って話じゃありませんw。

連作の色合いが強い新シリーズ:読書録「ネヴァー・ゲーム」

・ネヴァー・ゲーム

著者:ジェフリー・ディーヴァー 訳:池田真紀子

出版:文藝春秋(Kindle版)

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ジェットコースターっぶりは相変わらず。

大向こうを張るどんでん返しより、捻りとドライブが効いた展開。

…って感じでしょうか。

 


少し前なら「リンカーン&アメリアの方を早く」と思わなくもなかったんですが、あっちの関係性が安定してきたので、「新シリーズもいいかな」って気分になりましたw。

連作長篇…ではあるんですが、他のシリーズに比べると大きなストーリーを連作で繋ぐ感じ。

これもディーヴァーにしては珍しくて、期待させます。

 


主人公の「懸賞金ハンター」コルター・ショウは、イメージ的には「ジャック・リーチャー」っぽいかな?

「現代のカウボーイ」って感じが。

で、ポジション的にはリーチャーより「ちょっと頭脳派」。

サバイバルの味付けもキャラとして「いい感じ」になっています。

それがシリコンバレーを舞台とした「ゲーム業界」の中で走り回る妙が本作の味。

なかなか読ませますよ。

(シリコンバレーの不動産問題は、ほんと酷いことになってるようですね)

 


ディーヴァーはシリーズ以外の単独作も、相当ヒネリとオチが効いてて読ませるんですが、ここのところはシリーズもの中心。

まあ、矢継ぎ早にあんな「ネタ」を考えつける訳もないですからねぇ。

それよりも安定的に(年に1作か2作)高水準の作品を発表してくれることを喜んだほうがいいんでしょう。

期待は持ち続けたいですけど。

 


さて、すでに本国では発売されている続編の邦訳は来年の秋とか。

もうちょい早くならないかなぁ〜。

 

もう一歩、実務的なところに踏み込んだ話が聞いてみたい:読書録「共鳴する未来」

・共鳴する未来 データ革命で生み出すこれからの未来

著者:宮田裕章

出版:河出新書

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「人新世の『資本論』」が、資本主義に対抗する新しい<コミュニズム>を打ち出してるのに対して、個人的には「(少なくとも日本では)まだ資本主義の枠組みでやるべきことがあるんじゃないかな?」と感じています。

その期待は「技術革新」、そのベースにあるのが「データ活用」なんですが、その「データ活用」の現状を確認する意味で本書を読ませてもらいました。

 


作者の宮田さん。

銀髪で個性的なファッションをされる方で、

「近寄りたくないタイプやな〜」

と持ってたんですがw、自粛期間中にNewsPickの動画配信なんか見てると、

「かなりまともな人やん」(落合さんよりはリアリストw)

と見直したんですよねw。

(LINEを活用したコロナ対策への関与など、実務的な動きをしてるってのも評価ポイント)

 


本書は「貨幣」「国家」といった強制的・一元的評価体系に対して、「データ」を活用することで、さまざまな評価体系が共存・競合する社会が成立しうるのではないか(多層型民主主義)との観点から、今後の社会のあり方について考察する内容になっています。

イメージ的には中国の「芝麻信用」のような信用体系が複数成立して、それぞれが大切にする「価値観」で評価され、それをベースとした経済システムが構築されるイメージでしょうか?

一番わかりやすくだと、それが貨幣評価と交換可能になるのが良いとも思うんですが、そうなると「多層的評価体系」にはならなくなるのかな?

ちょっとここら辺はわからない…。(物々交換的な仕組みが成立するといいのかもしれませんが、ちょっと難しい気もします)

 


外科医療におけるNCD(National Clinical Datebase)や、LINEを活用したコロナ対策など、作者自身が関与し、実装・運営もした実例なんかを上げながら「データ」が新しい評価体系を構築する可能性を論じるあたりは、実務も絡んでいるだけにナカナカ興味深いです。

GDPRなんかにも言及しながら、個人情報のあり方なんかについての考察もされています。

「多層型民主主義」って考え方も面白いかな。

民主主義と資本主義の関係ってのは複雑なトコロがあるけど、民主主義サイドが多様な価値観を評価するようになると、自ずと資本主義も変容することが期待できますからね。(コミュニズムを持ち出さなくても)

ここら辺、その多様性を経済システムにどう組み込んでいくのかってのが課題ではあるでしょうが。

 


個人的にはもうちょっと実務的なところに踏み込んだ提言が読みたかったなってのがあります。

例えばちきりんさんが指摘しているこんなポイント。

 

<縦割りを排し、統一IDなしには暮らせない社会へ>
https://chikirin.hatenablog.com/entry/2020/09/30/125014

 


作者自身も統合されたIDについては動いているようですが(PeOPLe)、「マイナンバー」や「住基ネット」なんかがある中で、さらにそれとは別に…ってのは実務的じゃないし、スピード感もないんじゃないかなぁ。

その思想をベースに、実務的にマイナンバーあたりとどういう基盤を構築していくかってのを論じる段階にすでに入ってると思います。

ここら辺に突っ込んで、その先をどうしていくか…なんてあたりが聞きたかったんですよ。僕としては。

 


…ってまあ、それは勝手な僕の期待。

すでに行政とのコラボの経験もある作者ですから、そんなことは重々ご承知でしょう。

本書で提言している「多層型民主主義」の方向性は、僕は賛成です。

その実現に向けて「データドリブンな社会」を如何に作っていくか。

その中での作者の活躍を期待しています。

 


「行政のデジタル化に5年」

 


とかいうスピード感ではなく…ですね。

こっからやん!:読書録「死亡通知書 暗黒者」

・死亡通知書 暗黒者

著者:周浩暉 訳:稲村文吾

出版:ハヤカワ・ミステリ(Kindle版)

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「一気に読んじゃう」

と評判の中華ミステリ。

一気に読んじゃいましたw。

 


「三体」同様、本作も3部作の一冊目。(主人公の「羅飛」のシリーズはもっと他にもあるようですが)

怒涛の展開で、ある「決着」は着くんですが、「こっからやん!」ってとこで本書は終了します。

いやはや。

早く次が読みたい!

 


基本的には、

必殺仕置人vs精鋭捜査チーム。

で、本作については「必殺仕置人」の方が、終始上をいく展開です。

根本的に「正義を履行する」両者であるだけに、「制約」がない仕置人の方が有利に立つってのはあります。

心の<スキ>も突いてきますし。

この巻き返しが第2部以降…ということでしょうか?

 


描写とか、構成とか、心情表現とかで、「雑やな」って思うところはあります。

ここら辺も「三体」同様。

ただそういった「瑕疵」を押し流すような「勢い」があるのも、「三体」と同じです。

これが「勢いのある国」のエンタメなんかな〜なんて思ったりもして…。

(まだ共産国家的な設定のあった「三体」に比べて、本作はそういったところをほとんど感じさせません)

 


こんな感じで「韓国」に続いて、「中国エンタメ」も出てくるのかな〜。

面白いものが見れたり読めたりするのは有難いんですが、

「がんばれ日本!」

とも言いたくなっちゃいますw。

そんな熱心なナショナリストじゃないんですけど。