鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

フツーに面白い:読書録「合理的にあり得ない」

・合理的にあり得ない 上水流涼子の解明

著者:柚月裕子

出版:講談社文庫

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読むなら映画化された「孤狼の血」あたりがいいのかもしれませんが、なんかチョット重そうな感じがしたんでw、ここら辺から。

罠に嵌められて弁護士資格を剥奪された美人探偵と、東大&IQ140の天才助手が活躍する短篇集(5作)です。

期待通り、「軽く」読めましたw。

 


「探偵と助手」なんですけど、事件そのものは「推理で解決」という訳じゃなくて、「トラブルシューティング」。

でもって相手を「騙して」解決するパターンなんで、ジャンルとしては「コンゲーム」ものって感じですかね。

二人の関係も「主従」というよりは「バディ」。

どっちかっていうと、解決の道筋をつけるのは「助手」の方だったりしますw。

 


読み終えた感想としては、

「普通に面白い」。

スラスラと読めて、関係性もスッと頭に入ってくるのは、エンタメ作家としては上出来なんじゃないでしょうか。

主人公コンビもなかなか魅力的に仕上がっています。

まだ続編は書かれてないようですが、出たら読んでみたいとは思いました。

 


結構、作品は出てるようですから、何作か読んでみようかな?

とりあえずは「文庫」になってるのから…。

現場の矜恃を「政治」が押し潰す:読書録「邦人奪還」

・邦人奪還 自衛隊特殊部隊が動くとき

著者:伊藤祐靖

出版:新潮社

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元・自衛隊特殊部隊員の著者が描く近未来シミュレーション。

「尖閣島」を巡る「中国」との暗闘を序章として、北朝鮮でのクーデター騒動の最中、危機にさらされた拉致被害者の「奪還作戦」を遂行する陸海の自衛隊特殊部隊の活躍を描きます。

 


まあ、特殊部隊を立ち上げたご本人が描く話ですからね。

リアリティはたっぷり。

序章となる「尖閣島」での戦いは、やや「出来すぎ」な感じもありますが、「北朝鮮」での軍事作戦は、

作戦遂行中の非常事態、隊員の被害、官僚組織や政治との軋轢etc、etc

と怒涛の展開となります。

オチがこうなるのは、日本の置かれている状況、政治・官僚組織の現状からこうならざるを得ないのかと、やや暗澹たる気分にもなりつつ…。

政治家や、軍の官僚組織の振る舞いと、現場で任務を遂行する隊員たちの矜恃とのギャップには、何やら新型コロナ対策での政府・官庁と、専門家会議や医療機関・自治体とのギャップを見るようで、これまたなんとも言えない気分になります。

 


作者のデビュー作(ノンフィクション)は「国のために死ねるか」と、思いっきり右翼的な題名ですがw、内容は感情的な愛国心の煽りなんかじゃない…とは聞いています。

本書でもそういう「考え」の一端は窺えるセリフが、ちらほら…。(本書を読んで、「国のために死ねるか」も読んでみたくなりました)

 


<「結論から申し上げれば、『我が国の国家理念を貫くため』です。これ以外のはずがないのです。なぜなら軍事作戦は、国家がその発動を決意し、国家がその発動を命じて初めて行われるものだからです。だからその目的とするところは、国家が存在する理由、すなわち国家理念を貫くため以外であってはならないのです。(後略)>

 


<「本当に我々が確認させていただきたいのは、そこに強い意志が存在するかどうかなんです。共通の国家理念を追い求めている同志、同胞たる自国民が連れ去られたのだから、何がなんでも取り戻す。ソロバン勘定とは別次元、いかなる犠牲を払ってでも救い出す。その強い意志を総理ご自身がお持ちで、だから我々に“行ってこい“と命じていらっしゃるかどうかです」>

 


<「でもよ、普通に暮らしていた人がかっさらわれて、その居場所がわかっていながら、救出すると被害が多そうなので止めておきますってあるか?世の中には、コスパじゃ割り切れねえ物があるんだ。救出できる人数とその際に失う人数の割が合わないので見て見ぬふりをします、それはねえ。一歩も一ミリも譲れないものってあるよな。その時のために俺たちはいるんだ」>

 

 

 

アメリカ・中国・朝鮮半島との関係は、on the way で動き続けています。

その中で不測の事態が発生しないとも言えない国際環境。

その時、言葉だけの「イデオロギー」じゃなくて、「現実」を前にした「選択」と「行動」を導き出すのは「何」なのか?

作者が突きつけてるのは、そういうことなんじゃないかなぁ…。

 


一気に読むだけのドライブ感とリアリティのある作品です。

「軍事オタク向け」と片付けるのは、ちょっと惜しいかな。

 

まだそこまで怖くない:読書録「ゴーストハント1  旧校舎怪談」

・ゴーストハント1  旧校舎怪談

著者:小野不由美

出版:角川文庫

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そもそもは「十二国記」の新作(白銀の墟玄の月)読もうかなぁと思ってたんですよね。

ただ4巻もあるし、シリーズの流れもスッカリ忘れちゃってるし、じゃあ読み返すとすると、これまた沢山読まなきゃいけないし…

と逡巡してるところに見つけたのがコレ。

小野不由美のデビュー作。

ティーンズ文庫で出版されて(それで2、3作読んだはず)、その後リライト出版(これは未読)。

本作はそのリライト版の文庫化になります。

 


全7作。

途中でギブしちゃってるけど、そもそもがティーン向けだから読みやすいし、それくらいなら最後まで読めるかも。

…とこちらに鞍替えした次第ですw。

 


半分くらい忘れてましたが、キャラが勢揃いするあたりで、

「あ〜、こんなんやったわ〜」

と記憶が蘇りました。

惜しみなく、立ったキャラが1作目から勢揃い…ってのが本作の読みどころでもあるんですが、読み返してみると、結構キャラの扱いに格差が…。

色気巫女が大活躍(?)に比べて、破戒坊主は影薄いでしょうw。

ここら辺がまだ、こなれてないかな〜。

 


「怖さ」の方も、「屍鬼」なんかに比べたら、軽い軽いw。

今となってはラストの「返し」もちょっとパターン化してるかなぁ。

ここら辺、ティーンズ向けって感じですが。

 


じゃあ面白くなかったかというと、そんなことはなくて、一気に読んじゃいました。

リライトしても「ティーンズ向け」ってところは変わってないですが、これはこれでいいんじゃないかなぁ。

息子も娘も「ホラー」ギライなんで手にとるかどうかはなんとも言えませんが、中高生が読むには質の高い、良いエンタメ小説なのではないか、と。

「ホラー苦手」のおっさんが楽しめるくらいw。

 


一応、続きもボチボチ読もうかとは思ってます。

あんまり怖くなってきたら、やめるかもしれませんがw。

イスラム教の勉強として:読書録「ムハンマド」

・ムハンマド  世界を変えた預言者の生涯

著者:カレン・アームストロング  訳:徳永里砂

出版:国書刊行会

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出口治明さんの著作を読んで、「もうちょいイスラム教について勉強せんとな」と思って手に取った作品。(出口さんの紹介本です)

宗教学者がイスラム教の創始者「ムハンマド」について、その生涯と教義を重ねながら描いた作品です。

 


<9.11以降、一部の欧米メディアはムハンマドを救いがたい戦争中毒者だと主張して、十字軍時代に遡るイスラームへの「伝統的な敵意」を持ち続けている。>

<ムハンマドは暴力的な人間ではなかった。彼の偉大な業績を正しく評価するため、私たちはバランスの取れた見方で、その生涯に取り組まなければならない。不当な偏見を助長すれば、西洋文化の特徴であるはずの寛容性と寛大さ、思いやりをそこなうことになる。>

 


こういう問題意識から、作者はムハンマドの生涯を、その時代的制約を踏まえつつ、宗教的評価は抑えながら描いています。

僕自身はムハンマド(マホメッド)の生涯についてはザク〜っとしたアウトラインしか知らなかったので、「ヘェ〜」って感じでした。

ただまあ、その時代的制約やら教義の部分がスラッと頭に入ってこないのもあって、「読みやすい」とまでは言い切れませんでしたがw。

 


僕自身が、自分に「知っておいた方が良い」と思った点は以下です。

 


①ムハンマドの教義は、暴力的で抑圧的な側面の強い砂漠の哲学「ジャーヒリーヤ」に対する改革的な側面があり、社会改革的な色彩も強い。

②彼の教えは、多様性の許容しており、排他的でもない。(歴史的・地域的な観点から見れば)極めて平和主義的でもある。

③女性の権利に対しては革新的なまでに擁護的(その点は現代水準に比しても)。「ハーレム」に関しても、時代的・社会的制約から考えると、女性の権利を確保する側面が強い。

 


人間としてのムハンマドは、確かに革新的で信念を持った人物ではあるものの、個々の局面では割と迷いも見えたりします(そこをアラーが正すわけですが)。

ぶっちゃけ、

「ご苦労さんです…」

って雰囲気も。

まあ、時代性・地域性を考えると、「宗教的側面」と「政治的・軍事的側面」は切り離して考えた方が良いのかも…って感じもしました。

そういう考え方自体が、イスラム教的観点からどうなのか、ってのは別として。

 


「クルアーン」の特殊性もあって、イスラム教の本質を掴むのはアラビア語を使わない人間にとってはなかなか難しいところがあるかなぁとは思います。

またムハンマド以降の歴史の中で「イスラム教」がいろいろな捉え方をされるようになってるってのもあるでしょう(それこそ「テロリズム」との関連性とか)

ただ「イスラム教徒」ではない人間が、その教義原点としての「ムハンマド」の姿を垣間見るという点で、本書は意義あるものだと思います。

読むと、「ジハード」が「聖戦」ではなく、「奮闘努力」なのだと、よくわかります。

 


<彼の生涯は、強欲、不正、傲慢への根気強い反対運動であった。彼は、アラビアが岐路に立たされており、古い考えではもはや立ち行かないことに気付き、全く新しい解決策をみつけるために独自の努力をしたのである。>

 


そういう人物として「ムハンマド」を捉え直すことは、「イスラム」理解の上で重要な意味を持つと、僕自身も思うところがありました。

全然、宗教的な人間じゃないんですけどね、僕自身はw。

 

長いシリーズには向かないですね:読書録「変幻」

・変幻
著者:今野敏
出版:講談社文庫(Kindle版)

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「同期」「欠落」と続いてきた「同期」シリーズの最終巻。
2作目まで読んで、3作目が出版されたのを見落としてたんですが、amazonのキャンペーンの中で見つけて購入。
捜査一課・公安・特殊班に配属された同期(最初は二人。2作目からもう一人加わる)が、仲間が巻き込まれた事件を、協力しながら解決する…という内容。

 

…なんだけど、ちょっとネタ切れかなw。
少なくとも2作目・3作目は「同工異曲」というより、「同工同曲」って感じになってるし。
「同期」と言いながら、実際には警察組織として対応している色彩が強くて、「同期」はチョットした味付けくらいになっちゃってる。
シリーズをここらへんで畳んだのは「正解」かな、と。

 

ただ「安積シリーズ」ファンだと、チョットした「お楽しみ」もあります。
隣の係長の相良警部補&相良班が登場して、それなりに「活躍」してくれます。
名前は出てこないけど、安積シリーズや隠蔽捜査シリーズとのかかわりも推測させるところがあって、ファンとしてはくすぐられるんですよねw。

 

個人的には今野敏作品はあまりにも出版されるのでw、今は「隠蔽捜査」シリーズを追いかけてるだけなんですが、またチョット他のシリーズにも興味が湧いてきたりして…。
それが作者の「狙い」?w

 

生産性の高い「Lの世界」を日本に根付かせるために:読書録「コープレート・トランスフォーメーション」

・コーポレート・トランスフォーメーション 日本の会社をつくり変える

著者:冨山和彦

出版:文藝春秋(Kindle版)

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コロナ禍において、いち早く「afterコロナ」を視野に入れた著作「コロナショック・サバイバル」を出版した作者が、「本編」と位置付けて続けて出版した続編。

前作では「コロナ禍」によって社会・経済が足元どうなるか、その最中にどうすべきか…と言う「緊急対策」的な話が論じられていました。

それを踏まえ、「さて大きな方向性としてはどう言う風に進んでいくべきか」…と言うことが語られることを楽しみに本書を手に取ったのですが…

 


前半はなんだか期待外れというか、疲れましたw。

 


バブル後、日本企業が如何に的外れな経営を行ってきたか

その中でどれほどポジションを失い、経済的にも社会的にも摩滅していったか

その間に、欧米諸国では新しいプレイヤーや産業がドンドン登場し、停滞する日本企業との格差がどれほど開いていったか

 


<日本企業の平均的な現在地は、頭では会社のカタチ、組織能力について大きな変容の必要性、すくなくとも前述の三つの必要条件(本業の稼ぐ力の最大化、事業と機能ポートフォリオの新陳代謝力向上、組織能力の多様化・流動化)をクリアするための大掛かりな改革に踏み出す必要性は理解しつつあるが、心と体はまだまだ「ごっこ」の領域を出きらずにいるというところだろう。>

 


…と言う辛気臭い話をたっぷり聞かされw、それを踏まえた上で

「デジタル・トランスメーション」を包含する、企業のあり方そのものを「昭和」の思想から解放する「コーポレート・トランスフォーメーション」の必要性

を主張する。

 


<破壊的イノベーションの世界が、多くの産業領域で、これまで以上にすぐ目の前にまでやって来ている今、やらなければいけないのは、大きな痛みを伴う本質的な構造的改革の先延ばしや小手先の D Xごっこなどではなく、不連続かつ、かなりドラスティックな環境変化に対応できるような会社の形、アーキテクチャにリ・デザインすることなのだ。

 難しいのは、よくわかる。自分の会社の最も根っこの部分、最も根幹的なところ、つまりは革命に相当するくらいの憲法大改正をしなければいけなくなっているのだ。民法、刑法のような下位法規でも基本法を変えるのは、その後の運用を含めて大変な工数を要する。ましてや憲法大改正となると、膨大な数のルールや仕組みを変え、かつ運用も、さらにはそれを担う人間も変化を求められる。しかも国民生活(顧客の消費活動)は日々続いていくので、国家(会社)の運営は止められない。本当に大変である。>

 


いやぁ、それがどれだけ大切なことかは分かってるつもりです。

ただまあ、個人的にはそういう「大きな話」ではなくて、もっとスパンの狭い話を聞きたいと思ってたんだけど…

 


とモヤモヤしてたら、後半、「そういう話」になりましたw。(第5章以降)

僕自身の課題認識からすると、「日本経済復興の本丸ー中堅・中小企業こそ、この機にCXを進めよ」という、この章からが「読みたい」ところだったし、まあここを読むには「前半」もやっぱり読まなあかんのやなぁ、と。

 


< 今、その L型産業群がコロナショックの大きなダメージを受けている。この危機に際して、まずはシステムとしての地域経済とそこに働く資産も収入も失う人々の人生を壊さないようにサバイバルすることが問われるが、同時にこのショックが個々の地域の中堅・中小企業にとって長期持続的な再生に取り組む機会となることを期待している。『コロナショック・サバイバル』でも強調したとおり、この先もデジタル革命は進展し、破壊的イノベーションの波は良くも悪くも地方にも押し寄せるのだから。>

 


基本的には(当たり前だけど)冨山さんが昔から言ってることと大きく変わるわけじゃないんですけどね。

ただ、「コロナ」はそのスピード感を早めたし、その必要性も高めた…というところがある。

マクロン大統領が「産業の国内自給率を高める」みたいな談話を出してたけど、そこら辺が「Lの世界」。

この重要性が国家戦略上も再定義される必要が出てきている、ということではないかと、個人的には思っています。(政治的にはそこら辺がトランプ旋風やBrexitで表面化して来てたわけですが)

 


僕なりに整理するとこんな感じかな?

 


①「Lの世界」を担う中堅・中小企業は産業構造上も7〜8割を担っており、重要性は高いのだが、「afterコロナ」においては、その重要性・必要性はさらに高まる。

 


②しかしながら日本の中堅・中小企業は「生産性」が低く、その結果、従業員の給料も相対的に低くなっている。この点を放置しておくと、「Lの世界」の重要性が高まるにつれ、経済的にも社会的にも貧しくならざるを得ない。

 


③中堅・中小企業の生産性を高めるには大胆な変革=コーポレート・トランスフォーメーションが必要となる。

 


④「afterコロナ」はその緊急度とスピード感を高めている。

 


中堅・中小企業のCXを進めるための「リーダーの必要性」「リーダー等の人材の流動性向上」、リーダー輩出のための「教育改革」、中堅・中小企業の経営者をサポートする「地域金融機関の重要性」etc,etc

 


なかなか刺激的で興味深い提言が後半にはなされています。

冨山さんの場合、評論家的に「言いっ放し」じゃなくて、自分でキッチリ「実行」してますからね。

言ってることは厳しいことなんですが、ちゃんと裏付けがあります。

そこが自慢話に聞こえて鼻につく…って人もいるようですがw。

 


<自分がここでなしうることは何か、それに対して誰か相応の対価を払ってくれる人はいるのか、いないとしたら自分には何が足りないのか。日本的カイシャ、特に大組織に帰属して仕事をしていると、この自問自答をしなくなる。自分の上司や社内の空気が顧客になってしまい、自分のこの 1時間に、自分のこの資料に、アカの他人の誰かが対価を払ってくれるか否かを考えなくなる。しかし、それを考えながら過ごした 10年間と、考えない 10年間では、埋めがたい差がつく。>

 


サラリーマン人生を送ってきてる自分にとっては厳しい言葉。

でも否定することはできないなぁ…。

 


正直言って、「withコロナ」「afterコロナ」がどうなっていくか、まだまだ見通しはできないと感じてます。

日本についてはある程度「第1波」を凌いだ感はありますが、世界的には「全然おさまってない」感満載。

となると国内で経済活動を再開したとしても、海外との事業連携や、インバウンドの推進はなかなか難しいんじゃないかと。

 


その中で「Gの世界」はおそらく大きな変革の時代を迎えるでしょう。

その高いボラティリティに柔軟に対応していくことが、G型産業には求められる。

その厳しい優勝劣敗とは別次元で、国民の大多数を占める人々の幸福を支える「Lの世界」を充実化させるために、「L型産業」の生産性を引き上げていく改革に早急に着手する。

 


そういうことなんかなぁ…と読み終えて考えています。

 


<コロナ後のニューノーマル(新しい日常)の時代においても変わらない日常感覚的なゴールは、社会であれ、会社であれ、大学などの非営利法人であれ、その社会単位に帰属あるいは関わりをもって生きている人々の大宗が愉快に気分よく人生を送れることなのは確かなはずだ。進歩とか発展というのも、それがあった方が人は愉快に豊かな気持ちで生きていけるということに大きな価値があるのだと思う。>

 


そういう「未来」でありたいですからね。

 

逃げ切り世代の挽歌…って雰囲気も:読書録「ワイルドサイドをほっつき歩け」

・ワイルドサイドをほっつき歩け ハマータウンのおっさんたち

著者:ブレイディみかこ

出版:筑摩書房

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「労働者階級の反乱」(光文社新書)で、

労働者階級のEU離脱への賛同は、「移民問題」よりも、緊縮財政が続いて社会福祉制度が貧弱化し、新自由主義のよって相対的に貧しくなったことへの「異議申し立て」の側面が強かった

…と言うことを、自分のパートナーを含めた身の回りのベビーブーマー世代のおっさんたちの姿から喝破した作者。

その後、傑作「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」で売れっ子作家に(多分)なってますが、本書は「労働者階級の反乱」で取り上げた「おっさん」たちの<その後>を収めた作品になっています。

 


まあ「労働者階級の〜」にも「ぼくはイエローで〜」にも共通することですが、作者の弱者に対する視線はすごく優しい。

その根本には緊縮財政によって社会的にも経済的にも労働者階級を追い詰めてきた政府やグローバリズムへの<怒り>もあって、ここらへん、ブレイディさんのパンクなリベラルぶりってのは徹底しています。

 


NHS(国民保健サービス)への労働者階級の思い入れや、緊縮財政と新自由主義的政策によって、NHSがズタズタにされている現状なんかは、日本の「国民皆保険制度」の今後を考える上で参考にもなります。

今回の新型コロナウイルス対策におけるイギリスの不手際は目立ってますが、「皆保険制度があるはずなのに…」と思ってたら、こんなことになってるんですね。

まあ、これは上手く回るはずもないと言うか…。

一方で今ひとつ定着しない日本の「かかりつけ医」制度ですが、その推進において考えなきゃいけないことが炙り出されているとも言えます。

コロナ対策では医療機関の機能分化の課題も指摘されていますから、いずれはここら辺も論点になってくると思いますが、簡単に考えちゃいけないなぁ、と。

 


本書で取り上げられる「おっさん/おばはん」の姿には哀しくも温かい気持ちになって、「いろいろあるけど、頑張りや〜」って気分にもなるんですが、本書の第二部に収められている「解説」を読むと、「う〜ん・・・」って考えさせられもしました。

 


第二部では「世代」「階級」「アルコール事情」等に関する現状を説明してくれています。

ここで取り上げられてる「おっさん/おばはん」たちは、確かに緊縮財政で苦労し、社会が変質していく姿を体感した世代ではあるんですが(いわゆる「ベビーブーマー世代」)、同時に経済成長に支えられてきた世代でもあるんですよね。

それだけに「過去」においては優遇もされているし(例えば「教育」)、経済成長に応じて「資産」も手にしています(土地・建物・年金)。

エピソードの中でも、パートナーとの別れや経済的破綻が描かれる一方で、(僕から見ても)優雅な「老後」を過ごしている人も描かれています。

これはその後の世代(ジェネレーションX、ジェネレーションY(ミレニアム世代)、ジェネレーションz(ポストミレニアム))にはないものです。

下の世代から見れば、「逃げ切り世代が何を贅沢な…」って気分になる可能性もあるかな、と。

実際、「Brexit」を巡っては、「離脱派」が多かったベビーブーマー世代と、「残留派」中心のミレニアム世代の間に論争と断絶が生じつつあることも指摘されています。

そう言う意味で「ちょっとセンチな気分にもなるエピソード集」で終わらせないところがブレイディさんの誠実なとこ…と言えるかもしれません。

 


さて、本書ではこの断絶をつなぐ役割として「ジェネレーションX」への期待に関しても言及されてます。

ジェネレーションX

「え?俺ら?」

まあ、日本と英国じゃ社会制度も違うし、経済的ポジションも違うので、期待される役割も違うとは思いますけどね〜。

(若干、日本の方が遅れ気味…僕らの世代はギリギリ「逃げ切り」はできそうもないけど、一定の優遇は享受した世代…になりますか)

 


ただこう言う「先行例」があるのは確か。

となれば、それを踏まえて「より良い制度」を組み上げることはできるんじゃないですかね。

「緊縮財政」にはやはり問題が多いし、「再配分」にはもっと配慮する必要がある(これはアメリカの現状にも言えることでしょう)

ただそのベースには「一定程度の経済成長」は必要でもあろうとは思います。

withコロナ、afterコロナにおいて日本がやるべきはここなんじゃないかなぁと。

 


FAXやPDFで資料送付してるようじゃ、どうにもなりませんぜ。